2025年 01月 13日
「ここまでわかった!近視進行の分子•細胞メカニズム」大阪眼科集談会から(1332)

<特別講演> 座長: 山本 学 先生(大阪公立大学)
「ここまでわかった!近視進行の分子•細胞メカニズム」栗原 俊英 先生(慶應義塾大学)
今まで何度も近視進行抑制に関する話を聞いてきた。その都度、自分なりに整理してはブログに残してきました。
https://takeganka.exblog.jp/32743920/
遠視性のデフォーカスから始まる眼軸長延長に対して、近視抑制眼鏡(DIMS眼鏡)、ソフトコンタクトレンズ(MSight)、低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジー・・様々な方法が試みられ、徐々に&少しづつその近視抑制効果が明らかになってきた。ただ、自分で一体何ができるのだろうかと、いつも考えてきたけれど、まだ低濃度アトロピン点眼もオルソケラトロジーもしていません。低濃度アトロピン(0.01%)では、思ったほどの効果は得られないみたいだし、オルソケラトロジーは好きになれない。小学校低学年の子どもに寝ている時に特殊で高価なハードコンタクトレンズを装用させるのがあまり安全だとは思えないもので・・
そんな中、今回はちょっと別角度から近視抑制メカニズムについての講演。これが非常に興味深い内容で、一気に引き込まれてしまった。
近視人口が急増している現実がある。ただ近視の増加は合目的的というか、-3D程度の近視なら、多くの現代人のライフスタイルに合っているように思うのだが、高度近視・病的近視となると問題で、それが確実に増加している以上、近視抑制の研究の重要性は高まってきている。
最近、近視抑制のために1日2時間以上『屋外活動をして、光を浴びる事が重要』などと言われているが、なんかインパクトにかける結果で、せいぜい『よく学びよく遊べ』程度に受け止めていた。ただ、近視矯正のための前房型眼内レンズ:PMMAのアルチザン(ARTISAN)と、シリコーンのアルチフレックス(ARTIFLEX)の話を聞いてビックリ。
https://www.nature.com/articles/s41598-017-09388-7
VioletLight Transmission is Related to Myopia Progression in Adult High Myopia
図は上記論文から引用


同じようなICLだと思っていたら、明らかにアルチフレックス(ARTIFLEX)を入れた方が、その後の近視抑制効果があり、その原因が、350~400nmの紫光を通すか通さないかにあるらしい。紫光を遮断するアルチザン(ARTISAN)は近視が進むが、紫光を通すアルチフレックス(ARTIFLEX)には近視抑制効果があるのだと。『よく学びよく遊べ』なんて、のんきな話ではなく、紫光が凄い力を持っているという話のようで、一気に引き込まれてしまった。
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/201806.html
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32197911/
IncreasedTime Outdoors Is Followed by Reversal of the Long-Term Trend to Reduced VisualAcuity in Taiwan Primary School Students
⇒ 『台湾では、学校での屋外活動時間を増やす政策的介入により、学童の低視力が増加する長期的傾向が逆転した。ランダム化試験で屋外暴露が近視の発症を遅らせることが証明されているため、屋外時間の増加を促進する介入は、近視の流行に影響を受けている他の地域でも有用である可能性がある。』 つまり台湾では、屋外活動の近視抑制効果が証明された。
図は上記論文から引用

※屋内は、ほぼ紫外線ともに紫光もカットされているため、紫光を浴びる為には屋外で活動するしかない。LED光も紫光を含んでいない。
⇒ では、紫光が眼に入り、網膜に届いた後、最終的に眼軸の伸長が抑制されるまでのメカニズムはどうなっているのだろう。
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/202305.html
図は、この文献から引用

近視誘導動物眼モデルは、新生児のサル眼を瞼々縫合して、眼軸長伸長を誘発するところから始まり、その後ヒヨコでレンズ誘導近視モデルが完成し、このモデルで紫光による近視抑制を確認。その後様々な変遷を経て、マウスのレンズ誘導近視モデルが確立。精密な屈折測定、眼軸長測定も可能に。

- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29391484/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30048342/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30735205/
このモデルの近視化を紫光は抑制できた(同時に眼軸長延長も抑制)。じゃあ、何故紫光にそのような効果があるのだろうか。
オプシンとは・・・
http://gabriel.ess.sci.osaka-u.ac.jp/html/hisatomi/phototransduction/opsin-jp.html
https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-3.html
このオプシンには、視覚に関するものと、視覚以外に関与するものとがある。
視覚に関するのもの
- 杆体に存在するロドプシン (rhodopsin)
- 蒼錐体の青オプシン
- 緑錐体の緑オプシン
- 赤錐体の赤オプシン
視覚以外に関与している非視覚型オプシン
- エンセファロプシン(OPN3)
- ペロプシン(RRH)
- ニューロプシン(OPN5)
- メラノプシン(OPN4):ipRGCsに発現。
- RGR
※この中のメラノプシン(OPN4)が発現しているのがipRGCs内在性光感受性網膜神経節細胞で、少なくとも私が眼科医になった時は存在が知られていなかった第3の光受容器と言われているもの。480nmの青い光に最も高い感受性を持ち、視覚には関わらず、哺乳動物の瞳孔反応と概日リズムに関わっている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34031241/
論文から引用

今回の話題の中心は、ニューロプシン(OPN5)。360nmの波長に吸収極大があり360-400nmの紫光を吸収。OPN5も、神経節細胞層に発現していた。近視モデルマウスの近視化・眼軸長延長を紫光は抑制できるのだが、ONP5ノックアウトマウスでは、その近視抑制・眼軸長延長抑制効果が見られず、脈絡膜菲薄化も見られなかった。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2021/5/25/210525-1.pdf
※慶応大学のプレスリリースから引用

加えて、この紫光による近視抑制効果は、その光量を少なくしていっても持続し、2%以下になるまで効果があるらしい。つまり、僅かでも紫光を浴びていれば有効なようで、野外活動も燦々と降り注ぐ太陽光を浴びる必要はなさそう。(以前屋外活動2時間以上と言われてた気もするけど・・)
JINSというメーカーしかないというのが微妙だが、通常の眼鏡レンズは、紫外線カットと同時に紫光もカットしてしまうが、紫光をカットしないレンズ(JINS VIOLET+)を装用してもらうと、僅かに近視抑制効果があったが、この場合、JINSVIOLET+を装用しても野外活動をしてもらわないと紫光を浴びることができず、その効果は限定的になるので、眼鏡の中に紫光を仕込んでみるスタデイをしてみたら、何と近視を80%、眼軸長39%抑制できた。(ちょっと驚きの結果では?!)
⇒https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36294321/
論文から引用
ここから先は、ちょっと話が複雑すぎで、あまりそそられないが・・・
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/202305.html
感覚網膜ではなく、網膜色素上皮にLrp2がないと眼軸が延長する(網膜色素上皮特異的Lrp2欠損マウス)。このモデルマウスの脈絡膜では脈絡膜毛細血管板(CC)が消失していて、網膜色素上皮のVEGFは低下。VEGFはCCの維持に必須で、これがないとCCは消失する。またVEGFノックアウトマウスでも近視化・眼軸長延長(+)。網膜色素上皮由来のVEGFは、脈絡膜毛細血管板維持を介して、近視抑制・眼軸長伸長抑制に働いているらしい。
※昔昔、網膜色素上皮を選択的に障害する実験をしていて、網膜色素上皮がなくなった部位はやがてCCも消失し、網膜色素上皮が再生した部位はCC維持されたが、このメカニズムにVEGFが関わっていたのかも・・^^;
⇒つまり、脈絡膜の菲薄化は眼軸長延長に伴うものではなく、脈絡膜菲薄化が眼軸長延長を引き起こしている可能性あり。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/9/12/220912-1.pdf
また、多くの実験系(マクロファージ除去マウス)で、脈絡膜を菲薄化させると眼軸長延長した・・・。マクロファージといっても様々で、M1とM2が有名。

紫光が有効なのは明らかになってきたが、OPN5を有するRGCに紫光があたるとどうなるのか。網膜では、(近視を抑制する因子であることがわかっていた)EGR-1が増加していた。つまり、EGR-1が増加すれば近視抑制できるのだが、紫光以外にも方法があるのか。様々な食品を網羅的に調査した結果は・・・クロセチンという天然のカルテノイドにEGR-1増加作用があることが判明。しかも、これは濃度依存的にEGR-1活性を増加させるし、近視モデルマウスの餌にこれを混ぜると近視抑制効果が確認できた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36294321/ の図を改変

※クロセチンをググると、非常に多くのサプリメントがヒットする。商品には、『機能としてはクロセチンによる『睡眠の質を高める』『中途覚醒回数を減らす』『起床時の疲労感を和らげる』機能』なんて書いてあり、今まで、怪しげなサプリの一つだと思っていたが、ここまで真面目に講演を聴いてみると、急に意味のあるものに思えてきた。
https://jp.rohto.com/learn-more/eyecare/all/myopia/crocetin/
⇒『クロセチンが含まれているクチナシの実やサフランは、実は身近な食べ物に使われています。クチナシの実は栗の甘露煮や栗きんとん、たくわんの色付けに、サフランはパエリアやサフランライスの香り付け・色付けに使われている』 たくわんや栗きんとんを大量摂取するのは困難^^; つまり、通常の食事から摂取するのは難しそうなので、やはりサプリメントに頼るしかないかなさそうだ。ロート製薬のサプリメント内服による近視抑制効果は20%、眼軸長抑制効果は14%で、脈絡膜菲薄化抑制効果も確認されている。
https://www.shop.rohto.co.jp/category/supplement/clearvision/189779.html
ロート製薬のオンラインショップで、1ヶ月分3208円。これを高いとみるか・・・。クロセチン7.5mg/粒で調べたら、小野薬品やDHCにもっと安いサプリもあり、これでもいいのかな。『睡眠の質を高める』『中途覚醒回数を減らす』『起床時の疲労感を和らげる』・・・などの効果は、子どもには無縁かもしれないが・・・
※バイオレットライト眼鏡フレーム(多分発売されてない)にVIOLET+レンズを入れた眼鏡を装用して、クロセチン(ロートのクリアビジョン)を内服したら、かなりいい線いけるかもしれない(^^♪
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/43/1/43_43.1/_html/-char/ja
この文献から引用

ここから先は、ちょっと話が複雑すぎで、あまりそそられないが・・・
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/202305.html
感覚網膜ではなく、網膜色素上皮にLrp2がないと眼軸が延長する(網膜色素上皮特異的Lrp2欠損マウス)。このモデルマウスの脈絡膜では脈絡膜毛細血管板(CC)が消失していて、網膜色素上皮のVEGFは低下。VEGFはCCの維持に必須で、これがないとCCは消失する。またVEGFノックアウトマウスでも近視化・眼軸長延長(+)。網膜色素上皮由来のVEGFは、脈絡膜毛細血管板維持を介して、近視抑制・眼軸長伸長抑制に働いているらしい。
※昔昔、網膜色素上皮を選択的に障害する実験をしていて、網膜色素上皮がなくなった部位はやがてCCも消失し、網膜色素上皮が再生した部位はCC維持されたが、このメカニズムにVEGFが関わっていたのかも・・^^;
⇒つまり、脈絡膜の菲薄化は眼軸長延長に伴うものではなく、脈絡膜菲薄化が眼軸長延長を引き起こしている可能性あり。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/9/12/220912-1.pdf
また、多くの実験系(マクロファージ除去マウス)で、脈絡膜を菲薄化させると眼軸長延長した・・・。マクロファージといっても様々で、M1とM2が有名。
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M1(古典的活性化マクロファージ、classicallyactivated macrophage)、炎症促進性
⇒近視誘導
M2(オルタナティブ活性化マクロファージ、alternativelyactivated macrophage)、炎症の解消期や損傷した組織の修復を調節
⇒脈絡膜厚維持、血流維持、そして近視化抑制
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つまりマクロファージの極性がM2優位なら近視化抑制。このマクロファージの極性の変更に介入可能らしい。ここで有名な不飽和脂肪酸の話:ω6(炎症惹起)vsω3(炎症抑制)。近視化モデルマウスの餌にω3を多くいれると近視化抑制できた。(脈絡膜菲薄化抑制、近視化・眼軸長延長抑制)(食餌でマクロファージの極性をM2 に誘導可能?)
ω3系不飽和脂肪酸とは ⇒https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/10.html
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35532744/
https://takeganka.exblog.jp/10903133/
⇒『EPAとその代謝物は近視抑制と脈絡膜菲薄化の抑制に関連』
- ω3の下流のEPA(⇒近視進行抑制)
- ω6の下流のPG代謝産物(⇒近視進行)
※加齢黄斑変性だけでなく、近視予防のためにも、昔ながらの魚中心の食事がいいのかも。
※例えば、マグロ、イワシ、サンマ、サバ、アジ、加えて、鰻(蒲焼)・・
※現在市販されている点眼で、脈絡膜菲薄化を抑制できるものはないか・・・・つまり市販されている点眼で脈絡膜血流を増加させる作用を持つものを検索すると、殆どだれも使わなくなった緑内障点眼(デタントール)にその作用が確認された。近視化抑制・眼軸長延長抑制効果も確認(近視化モデルマウス)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37955611/
『Topical Application of Bunazosin Hydrochloride Suppresses MyopiaProgression With an Increase in Choroidal Blood Perfusion』
脈絡膜菲薄化から強膜菲薄化への流れは・・?
脈絡膜菲薄化 ⇒ 強膜の線維芽細胞で小胞体ストレス(+)(マウスでもヒヨコでも・・)
小胞体ストレスを誘発することがわかっている薬物を点眼すると、その後眼軸が延長し、逆に小胞体ストレスを抑制する薬物を投与すると、近視化モデルで近視が抑制された。つまり、近視抑制のターゲットは強膜の線維芽細胞の小胞体ストレスにあるらしい。
海洋汚染として注目されているBPA。これがアジアの河川に多い・・。BPAをマウスに投与すると、強膜小胞体ストレス誘発。小胞体ストレス抑制剤(4-PBA)を点眼すると近視化抑制できた。これも昨今アジアでの近視化ブームの要因の一つかも。
※この最後の結論は、若干疑問があるが、確立されたマウスの近視モデルを用いて、脈絡膜厚・眼軸長・近視度数などを精密に測定し、何が近視を促進し、何が近視を抑制するのかが明らかに。紫光が近視進行を抑制すること。近視が抑制されるメカニズムの解明。近視進行抑制に介入する方法など、非常に興味深い内容で、近い将来近視予防が可能になるかもしれないと希望を持たせてくれる素敵な講演だった。
今、我々ができることは?
- 近視を抑制させるメカニズムを促進する方法:1~5
- 近視を進行させる要素を抑制する方法:6~9
色々あるが、下記1~4までは、比較的簡単にトライできます。加えてもうすぐ市販される低濃度アトロピン点眼かなあ・・。
- 紫光を浴びること(屋外活動)。
- 眼鏡が必要な場合は、JINSのVIOLET+レンズにする。
- クロセチンの内服
- ω3不飽和脂肪酸を含む食べ物多くとり、ω6不飽和脂肪酸を多く含む食べ物を控える?
- https://takeganka.exblog.jp/10903133/
- マグロ、イワシ、サンマ、サバ、アジ、鰻(蒲焼)・・・など
- 塩酸ブナゾシン点眼(保険適応外)
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- 低濃度アトロピン(現在自費、0.025%アトロピン点眼が、もうすぐ日本でも発売)
- オルソケラトロジー(ちょっと高価)
- DIMS眼鏡(日本未発売)
- MSight(ソフトコンタクトレンズ)(日本未発売)
https://coopervision.jp/our-company/news-center/press-release/200205
今年中には、参天製薬から0.025%アトロピン点眼が発売されるらしい。そうなったら、近視抑制対策に本格的に取り組もうかな。