色覚異常1

今回は、色覚異常についてとりあげます。これについては、誤解が多かったり、怪しげな『治療と称する行為』を行う業者がいたり、また、学校でのスクリーニング検査が廃止されたり・・・非常に大きな問題なので、取り上げたくはなかったのですが、避けて通れない問題なので。

ただこの問題については、日本におけるこの分野の大家である深見嘉一郎先生(福井医科大学名誉教授)、田邊詔子先生(名古屋第一赤十字病院眼科部長)、市川一夫先生(中京病院眼科主任部長)がホームページ
を開設されていますので、大家の意見は、そちらをご覧ください。


論点をこの3つに絞ります。
1、色覚異常、色盲・色弱という言葉の問題
2、学校での色覚スクリーニングの持つ意味。
3、色覚異常者は、日常生活に全く支障がないか?職業選択上の問題はないか?


先ず、1、色覚異常、色盲・色弱という言葉の問題。
色の判別能力が正常者と比べて、明らかに劣るのであれば、異常という言葉は致し方ないでしょうか。近視でも屈折異常という訳ですし・・ただ、さすがに、色盲・色弱という言葉は、問題ありますし、今は、使いません。多くの場合他人に気づかれることなく、日常生活を普通に過ごすことのできるのに、このような呼び名で呼ばれることの抵抗感が強いのは理解できます。従って、言葉の問題を含めて、十分な配慮が必要だと思います。

次に、2、学校での色覚スクリーニングの持つ意味。
1916年に石原忍氏が作られたが仮性同色表、石原式色盲表はTest for Colour Blindnessとして世界的に使用されるようになります。この検査表は、簡単かつ鋭敏で、軽い異常でも検出することがきる世界に誇る検査表です。多くの色覚異常者は、日常生活に支障を来たしていないのは、事実ですが、実際は、色誤認をしているのは事実で、特殊な免許の取得や、職業によっては制限があるのも現実です。将来の進路を決める為に、小学校で行われていたこの検査は、非常に重要な役割を担っていたと言えます。それが、平成15年から撤廃されたのです。
これによって、色覚異常者が、色覚異常の有無を気づくのは、いつになるのでしょうか。日常生活に支障がないとはいえ、色誤認は存在するのです。一部の人でしょうが、将来突然進路を遮断されことになりはしないのでしょうか。差別につながるから、検査しないというのは、本末転倒だと思います。差別にならないように教育する、配慮するのが学校ではないでしょうか。事実を把握した上で、対策を考えるのが本筋だと思うのですが。支障がないのと、異常がないのは違うし。支障がない人が、困ってないとも限らないのです。でも、男性の5%、女性の0.2%いると言われている色覚異常者数は非常に多く、今後、放置されたままになるのでしょうか。
差別につながるから、体重・身長・血液型・・・皆、検査しない方がいいのでしょうか・・

最後に、3、色覚異常者は、日常生活に全く支障がないか?職業選択上の問題はないか?
支障がないと言えば、そうなのかもしれません。生まれつき、異なる色社会に暮らしていて、それが普通なのですから。ただ、その色社会が他の人と異なり、色誤認が現実におこっているのは事実なのです。
どのような色誤認がおこっているのかをわかりやすく説明してくれているホームページがありましたので、引用します。第2回:色覚が変化すると,どのように色が見えるのか?(細胞工学8月号)からの引用した図を見てください。

色覚異常1_f0088231_1263072.jpg


この図は、赤緑色盲の人がどのように見えているかのシミュレーションです。
左列:オリジナル画像、中列:第1色盲、右列:第2色盲

1)赤緑色盲の人が混同しやすい2 色と3 色の組み合わせ.
第一・第二色盲では色の差が小さくなっています。

色覚異常1_f0088231_1283261.jpg


2)小さな色の差で赤緑色盲の人に見分けやすくなる例.
暖色系の緑や黄緑は赤や黄色と混同しやすい(左の2 枚)
青みの強い緑は混同しにくい(右の1 枚)

色覚異常1_f0088231_1285178.jpg


3)「色の弁別」は,色相や明度,彩度のわずかな違いがあれば可能であるが,これらの色について色名を尋ねられても「茶色?」としか答えようがない.

色覚異常1_f0088231_1292966.jpg


色のカテゴリーの境界は3 色型色覚の人の感覚に合わせて定められており,色盲の人にとってこれらの色を,赤,オレンジ,緑,茶色,黄色,黄緑などのカテゴリーに分類する「色の同定」はきわめて困難である.


このように、正常の人と、色覚異常の人の見え方が違うということはお分かりいただけたと思います。また、現実問題として、職業選択上も制限はあるのです。平成13年10月から、雇入時の健康診断の項目から色覚検査が削除されたとしても・・具体的には、以下の職種が問題となります。
1、色覚が問題になる資格試験(平成15年2月現在)
①航空機乗組員         :色覚が正常であること。
②航空管制官           :色覚が正常であること。
③航空保安大学校学生 :色覚が正常であること。  
④海技従事者 :色盲又は強度の色弱でないこと。
※ 但し、小型船舶操縦士の色覚については、強度の色弱であっても、日出から日没までの間において、航路標識の彩色を識別ことをもって足りる。
⑤海上保安大学校生 :色覚が正常であること。
⑥海上保安学校生 :色覚が正常であること。
⑦動力車操縦者(鉄道関係)  :色覚に異常がないこと。
⑧自衛官              :色盲又は強度の色弱でないこと。
(但し、飛行要員は色覚正常なもの)
⑨警察官
     例  警視庁警察官    :警察官としての職務執行に支障がないこと。
⑩皇宮護衛官 :色覚が正常であること。
⑪入国警備官 :色覚が正常であること。
⑫各都道府県教員資格については、各都道府県の教育委員会へ直接お尋ねいただくように。

2、色覚異常を有するものが問題となる職種は?
印刷
塗装
繊維工業
野菜・魚の鮮度の選定
イラストレーター
    など、微妙な色あわせや色識別を要する職種

『日常生活に何の支障もなく暮らしているのに、色盲とか色弱と呼ばれ、言われなき中傷・差別受けることへの反論』が行われていることは知っています。ただ、女性なら500人に1人でしょうが、男性なら20人に一人という高い頻度で、色の判別能力が低下している人がいるのは現実です。生まれながらの異常なので、本人は、特に意識することもなく、不自由を感じることもなく暮らしているのが現実でしょう。ただ、それは、異常がない。将来あらゆる局面において、困った事態にならないということとは、別なのです。生まれつき、色の感覚が違うので、その見え方に順応しているだけなのです。その事を、しっかりと把握しておいて、現実問題に対応することは、この手の問題に対する誤った対応の是正とは別個に必要なことだと思うのですが・・
by takeuchi-ganka | 2006-11-13 12:12 | その他

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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