これからの小児の近視診療に向けて その1 (1339)
2025年 04月 01日

これからの小児の近視診療にむけて

日本でもやっと低濃度アトロピン点眼が発売されることになった。医学の進歩という点においては、改めて凄いなあと思う。昔は、近視はただメガネをかけるだけの対象だったし、近視予防とか進行抑制なんて、怪しげな言説しか存在しなかった。また眼科医としても、こうすれば近視を予防できると言えるような根拠を持ち合わせていなかったもので、近視抑制効果を謳った怪しげな様々な試みを否定しにくい状況でもあった。少なくとも私が開業した平成10年頃はまだそんな感じだったかなあ・・
その後、大阪のコメディカルの講習会の演者を数年前に亡くなった三木先生から押し付けられ、勤務医時代殆ど勉強しなかった屈折異常に関する講義をする羽目になった。超レトロだった三木先生のスライドを手直しして、パワポで作り直したが、その過程で初めて真面目に屈折の勉強をした気がする。三木先生にお礼を言わないと・・・。2013年頃だったけど、近視は、調節ラグが引き金になるとか、アトロピン点眼が近視抑制効果をもつとか、近視(進行)そのものが、治療対象になるかもしれないと知って驚いた。
近視に関しては、根強い様々な言い伝えがある。
- 暗いところで本読むと目が悪くなる。
⇒結構根強い言い伝えだが、本当なら年中半暗室で仕事している眼科医は全員目が悪くなる筈^^; ただ今でも、『よくこんなところでずっと仕事していて、先生目が悪くなりませんね・・』などと言われることも。
- 仮性近視を放置すると近視になる。
⇒以前は、初期の近視にミドリンMが処方している眼科はあったし、『軽いですが近視ですよ・・』と言っても、『えっ・・仮性近視じゃないんですか・・』なんて驚かれたこともあった。
- メガネをかけると近視が進む。
⇒これは、今でも、親が信じていて眼鏡装用に抵抗されることがある。近視が進み始める時期に眼鏡を掛け始めるわけで、当然・・
・・・
など。結構様々な『言い伝え』が広く信じられていて、そんなアホな・・と思っても、科学的に否定しようとするとなかなか困難だったりする。ただ、世界規模で、近視発生メカニズム、近視進行抑制の研究が行われるようになり、我々にも正しい知識が知れ渡るようになってきた。
このブログにも随分前から近視に関する記事を書いてきたが、かなり変遷してきているのがわかる。
- https://takeganka.exblog.jp/1233215/ 近視治療について
- https://takeganka.exblog.jp/11335226/ 眼科に関するQ&A その1(近視) (367)
- https://takeganka.exblog.jp/14973512/ 第3回眼科臨床クイックレビュー その3 (500)
- https://takeganka.exblog.jp/15145423/ 第379回大阪眼科集談会 その3 (505)
- https://takeganka.exblog.jp/29969271/ 第36回大阪市眼科研究会 その3 (1085)
- https://takeganka.exblog.jp/30367234/ 眼科スタッフ教育講座 近視進行のメカニズムと近視進行抑制治療 その1 (1114)
- https://takeganka.exblog.jp/30371713/ 眼科スタッフ教育講座 近視進行のメカニズムと近視進行抑制治療 その2 (1115)
- https://takeganka.exblog.jp/32124022/ NHKスペシャル 超近視時代 (1246)
- https://takeganka.exblog.jp/31326952/ 第437回 大阪眼科集談会 その5 (1228) 「低濃度アトロピン点眼による近視進行抑制」
- https://takeganka.exblog.jp/32743920/ 近視進行抑制眼鏡 (1258)
- https://takeganka.exblog.jp/37446937/ 「ここまでわかった!近視進行の分子•細胞メカニズム」大阪眼科集談会から(1332)
いつものように長い長い前フリだが、そしてやっと日本でも参天製薬から低濃度アトロピンが4月21日に発売になる。
『これからの小児の近視診療に向けて』というテーマのWEB講演会の最初の演題は、
日本初の近視進行抑制点眼剤『リジュセアミニ点眼液0.025%』
筑波大学 平岡孝浩先生
https://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(16)00025-7/fulltext

全世界での近視人口の増加予測だが、2050年には世界人口の約半分が近視で、10%近く(9.3億人)が高度近視になるという予測になっている。近視進行抑制薬を開発する企業としては、この市場はとてつもなく大きい。しかも近視が治るわけではなく、進行抑制だし、ある時期に世界の半分ぐらい人口がこの薬剤の対象になるのだとしたら、凄いことかも。
日本でも視力1.0に満たない割合(殆どが近視)は、中学生になると半数を超える。

読売新聞から
近視の要因
リスクファクターとしては
1,遺伝的要因:親が近視だと近視になりやすい。
2,近業:近くを見ること(調節)が近視進行の引き金になる。
抑制・保護要因として
3,屋外活動時間:屋外活動時間が長いと近視になりにくい・・
などと言われている。これについては、以前ブログで書いたが、勉強ばかりしないで、少しは外で遊んだほうが良いよ・・・なんて事ではなく、一定時間、屋外で『350~400nmの紫光』を浴びる事が重要らしい。
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240801-OYT1T50115/
https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2765517
まあ、近視もそれだけなら、不便なだけの問題だが、病的近視になるとそうもいかない。高度近視になれば、白内障(2.87倍)、緑内障(2.92倍)、網膜剥離(12.62倍)のリスクが飛躍的に上昇する。従って、せめて高度近視だけは抑制する必要がある。重要ポイントだと思うが、高度近視になる可能性というのは、何歳ぐらいで近視を発症するかに大きく依存するようで、10歳なら1-2D程度で済むが、6歳なら-5D以上になることも。つまり小学校1年ぐらいから近視になっている子どもは要注意ということになる。
「Ageof onset of myopia predicts risk of high myopia in later childhood in myopicSingapore children」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27350183/
『結論⇒近視の発症年齢または近視の進行期間は、近視児における小児期以降の強度近視の最も重要な予測因子であった。 近視から強度近視への進行を遅らせるための今後の試験は、近視の発症年齢が低い、または近視の進行期間が長い小児に焦点を当てることができる。』
発症年齢と11歳での近視度数の関係
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10歳発症 ⇒ -1.53D
9歳発症 ⇒ -2.35D
8歳発症 ⇒ -3.21D
7歳発症 ⇒ -4.46D
6歳発症 ⇒ -5.48D
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https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8861094/
Longitudinalanalysis of 5-year refractive changes in a large Japanese population
『要約:・・・・・ 日本人集団における屈折変化のパターンを明らかにするために、我々は3~91歳の日本人593,273眼を対象に、性、年齢、SEで層別化した球面等価(SE)屈折変化の5年間の追跡縦断解析を行った。 近視化に伴う5年間のSE変化は、4歳以降、経時的に劇的に増加し、ベースライン時に8歳であった男女で最大の変化が観察された[男性:-2.654±0.048ディオプター(D)、女性:-3.110±0.038D]。 学童期の5年間の近視変化は、男性よりも女性で大きく、遠視や強度近視の眼よりも、遠視や中等度近視の眼の方が近視変化が大きかった。8歳をピークに、5年間の近視変化は年齢とともに徐々に減少し、男性では27歳、女性では26歳で-0.25Dを下回った。 5年間のSEの変化は、男女とも51歳で近視性から遠視性へと移行し、遠視眼ではより早く遠視化が進行した。この結果は、学童期における近視予防の重要性を強調するものである。』

文科省の調査でも小1~小3が最も近視が進んでいる。

※ベースライン時の各年齢における球面等価屈折異常(SE)の5年間の平均変化。 X軸はベースライン時の年齢を年単位で表す。 Y軸は、男性(黒丸)と女性(白丸)の各ベースライン年齢における5年間の平均SE屈折異常変化の大きさを表す。
このグラフは凄い。近視化が発生している時期が良くわかる。5歳ぐらいから劇的に増加し、7-8歳がピークで、その後減少している。つまり、近視を抑制するには、このグラフの山を小さくすることが重要で、治療ターゲットは、5歳から12歳ぐらいがメインと考えていいのだろう。小学校入学前後から卒業ぐらいまでかな。となると、就学時検診か小学校1年生の視力検査で近視があれば、要注意だろう。治療はだらだらすることはなくて、小学校入学から卒業まででいいのかも。この8歳をピークとする近視化を半分に押さえられたら、病的近視は、半分以上予防できるかもしれない・・
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32740040/
『目的 日本人青年の近視における年間軸長(AL)伸長と関連因子の相関を検討すること。 方法 この後方視的研究では、7歳から21歳の近視患者を登録した。軸長は眼球生物測定法を用いて測定した。 屈折異常と曲率半径(CR)は、両眼オートレフ・ケラトメーターを用いてサイクロプレギアなしで測定した。被験者を3歳間隔で5群に分け、年間のAL伸長と年齢、球面等価(SE)、角膜CR、性別との関係を評価した。結果 平均年齢15.55±4.09歳の患者482人(男性184人、女性298人)が対象となった。AL年間伸長率は、最年少群で0.47±0.19と最も大きく、最年長群では0.03±0.04と年齢とともに減少した。 ALにおける年間変化は、年齢およびSE(P<0.01)と関連していたが、性別およびCR(P>0.05)とは関連していなかった。 年齢別に層別化した軸長の伸びは、15~18歳群(R2=0.20、P<0.01)および19~21歳群(R2=0.37、P=0.01)ではSEと有意な相関がみられたが、7~9歳群(R2=0.04、P=0.14)、10~12歳群(R2=0.05、P=0.07)および13~15歳群(R2=0.01、P=0.14)では有意な相関はみられなかった。結論 日本人の近視青年において、AL伸長は最も若いグループで最も大きく、年齢とともに減少し、特に15歳以上のグループでは減少した。』
⇒ これでも、近視進行のピークは、7-9歳。やはり小学生が治療ターゲット。
※近視を抑制というか、病的近視を少しでも減らすためにも、この一番近視化傾向の強い時期に治療を行い、近視進行を抑えることが必要だろう。

中2と小6息子がいるのですが、2人とも3歳から近視です。毎年度が進んでいて今年も学校から矯正視力が落ちてることを知らせる紙を貰ってきており、明日眼科です。現在使用中のメガネは上の子が右S-15.50D C-1.75D、左S-14.75D C-1.50D。下の子がS-10.50D C-1.50D 左S-10.50D C-1.00Dです。
今、外なので詳しい数値は調べないと分からないのですが2人とも8歳(小2~小3)の時が特に進んでいました。
2人とももうかなり進んでいる部類だと思いますが今からできることはどんなことがありますか?

近視の抑制もオルソケラトロジーは適応外なので、3年ほど前からマイオピン点眼はしています。ただ、度は進んでおりその度にメガネとコンタクト(下の子はまだメガネのみ)の度数を変えてる状況です。
先日の書き込みの後、眼科に行きました。結果は先日の度数のメガネで上の子が0.4、下の子が0.2でした。ちなみに2人とも去年の5月に作った時は0.8くらいに合わせて、12月の検診時は0.6くらい見えていました。新しいメガネは上の子が右S-17.00D C-1.75D、左S-16.25D C-1.50D。下の子がS-13.00D C-1.50D 左S-13.00D C-1.25Dです。眼軸長は上の子が両目とも29ミリほど、下の子が28ミリほどでした。
どこまで進むか心配がつきません…。小・中学生でこのくらいの度数の子は先生のところにもいらっしゃいますか?一番強くてどのくらいの子がいるのでしょうか?