ネルテペンドセル(ビズノバ)について (1348)
2025年 08月 04日

これは、培養ヒト角膜内皮細胞移植のための再生医療等製品。
我々が眼科医になったころ、水疱性角膜症(今ではcorneal endothelium dysfunctionと呼ぶらしいが・・)に対する治療は、全層角膜移植しかなくて、それも専門にしていない病院では、殆ど行われていない状況だった。若い頃、アイバンクの当番の日に、登録している方がお亡くなりになると、服装を整え、眼球摘出キットを抱えて、先輩医師とともに、亡くなった患者さんのところへ伺い(時には自宅だった)、眼球を丁寧に摘出して、保存ケース入れて、当時中之島にあった阪大病院の、古びた薄暗い部屋に届けた記憶がある。気がつけばあれから40年も経ったのだから、水疱性角膜症に対する治療も当然様変わり。
ただ、門外漢の印象としては、長らく全層角膜移植が主流で、つい最近、角膜内皮移植に移行したような気がする。角膜内皮移植といっても、ドナー角膜から角膜内皮を採取して、内皮シートをレシピエントの角膜内皮に移植するというもので、ドナー角膜ひとつから内皮シートは1枚しか採取できない。全層角膜移植に比べると、侵襲は軽いというものの、安定した成績になるのには、少し苦労するようで、移植された内皮も徐々に減少するのは避けられないらしい。
ここで、培養ヒト角膜内皮細胞が登場。内皮細胞を培養増殖させることができれば、僅かな内皮細胞から多くの角膜内皮細胞を入手することが可能になる。今回のネルテペンドセルというのは、培養ヒト角膜内皮細胞を含む懸濁液であってシートではない。
手技としては、『水疱性角膜症の角膜後面を掻爬し、培養角膜内皮細胞を細胞懸濁液の状態で ROCK阻害薬とともに前房内に移植(注入),患者が3時間のうつむき姿勢を保つことで移植細胞が角膜後面に接着して自己組織化し,角膜内皮細胞層を再構築する。』というもので、これまでの内皮移植と比べて非常に簡便な方法といえる。7-8年前に聞いた小泉範子先生の話が、ようやく商業べースに乗って、現実のものとなり始めたのだろう。『前房内注射+3時間うつむき』で、水疱性角膜症が治るのなら、医学の進化を実感するなあ・・
https://takeganka.exblog.jp/27852126/
※単にヒトの角膜内皮細胞を培養したもの・・・というのではなく、『生体内の角膜内皮細胞に類似する成熟分化した培養角膜内皮細胞を作成』するノウハウが詰まっている。
https://aurionbiotech.co.jp/medical/bullous-keratopathy.html
とは、言うものの・・・・
このネルテペンドセルの供給量が限られていることを考慮してか、使用条件はまだまだ厳しい。潤沢に供給できるようになって初めて本来の目的が達成できるのだとすれば、まだまだ過渡期かな。また、実施できる医師の条件も、まだ厳しい。角膜移植術者経験5例以上の眼科医は、これからどんどん該当者少なくなるのでは・・
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/neltependocel_2nd.pdf
使用条件:従来のドナー角膜移植では角膜移植片を前房に入れるのが困難あるいは虹彩癒着などのリスクが高い症例である.具体的にはドナー角膜移植(全層角膜移植(PKP),Descemet stripping automatedendothelial keratoplasty(DSAEK))後例や小眼球症,前眼部形成不全,浅前房など.特に浅前房においては中でも緑内障術後,緑内障発作後,角膜移植後などの続発性の虹彩前癒着例が該当する.⇒これでは、せっかく簡単になった水疱性角膜症の治療の意義が半減^^;

