原発閉塞隅角病について (1359)
2025年 12月 24日

所謂『原発閉塞隅角緑内障』という疾患の名前は、元々国によって定義も異なり、時代によっても呼び名が変遷している。今回、この病名が、
原発閉塞隅角病 ⇒ Spectrum of PAC(sPAC)
- 原発閉塞隅角症疑い(PACs)
PACD(原発閉塞隅角病)
- 原発閉塞隅角症(PAC)
- 原発閉塞隅角緑内障(PACG)
この呼び名に統一されるようです。ただ、名前が代わっても病気そのものが変化する訳じゃないし、病気そのものをしっかり診断できるかどうかが問題なのは言うまでもない。このSpectrum of PACというのは、原発開放隅角緑内障と異なり、解剖学的なアンバランス、一般的には、眼軸が短い、前房が浅い、水晶体が厚い、プラトー虹彩などの特徴を持った眼の中で、やがて隅角が閉塞、眼圧上昇、視神経障害が発生するかもしれない範疇に属する眼に対する呼称だと思う。その中で、
1,原発閉塞隅角症疑い
これは、単に隅角が狭くて、将来隅角が閉塞する可能性のある眼につけられた病名でしょう。疑いとつくけど、病名という妙な感じがしますが。以前は単に狭隅角と呼んでいたものが、将来を見越して原発閉塞隅角症疑いと呼ぶのだろう。この将来隅角が閉塞する可能性をどこで判断しているのか。直接的には、隅角角度だが、これに深く関わる要因として、眼軸・前房深度・瞳孔ブロックの程度・水晶体厚などがある。
一般的には、細隙灯顕微鏡検査、隅角鏡検査、そして前眼部OCTを行い、診断を行うことになる。前房深度が2.3mm以上ある、やや狭い程度の隅角なら除外してもいいのかもしれないが、前房深度がそれ以下になってくると、通常徐々に瞳孔ブロックも強くなり、隅角は更に狭くなるので、このあたりから、原発閉塞隅角症疑い(PACs)でいいのかもしれない。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211505612000567#fig1
trabecular-irisspace area (TISA)

※日本においては、もうかなり前からレーザー虹彩切開術の角膜内皮へ及ぼす影響が大きく取り上げられ、私自身も殆どレーザー虹彩切開術を行わなくなってしまった。ただ世界的には、ZAP Trial、ANA-LIS studyなどが行われ、特に後者においては、PACSにレーザー虹彩切開術をすれば、無治療で5年で10%がPAC・PACGに進展するものが、その半分程度に抑制できたとしている。このPACSからPACへ進展するのに関わる需要な要素が『TISA500』だと。
※隅角が狭いといっても、それに関わる様々要があり、レーザー虹彩切開術は、その中の瞳孔ブロックを解除するだけなので、他の要因の程度によって、レーザー虹彩切開術の有効性は異なってくるのだろう。
※アメリカのAAOの定義では、ITC(Iridocornealcontact)が180°以上&peripheralanterior synechia(-)となっている。ITCが180°以上って、かなりのハイリスクだと思うのだけど・・。日本では、細隙光を細くして、上下、耳鼻側で観察して、Shaffer分類を行い、第一眼位で線維柱帯が見えないと『closed』。圧迫隅角でPASの有無を判定。(※私は、これが多くの眼科医がしっかりできているかどうか、かなり懐疑的だ。)
2,原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障
Spectrum of PAC(sPAC)の中で、前房深度が更に浅くなってくると、瞳孔ブロックは更に強くなり、隅角は閉塞することになる。この隅角が閉塞する過程というのは、全く隅角閉塞のない状態から一気に広範囲に閉塞して、高度の眼圧上昇を伴う急性発作もあれば、少しずつ隅角閉塞範囲が広がり、徐々に眼圧上昇をきたし、POAGに近い経過をたどるものもあれば、徐々に隅角閉塞が広がり、ある時急性発作に類似した眼圧上昇をきたすものもあるだろう。この経過の違いも、狭い隅角をつくる様々な解剖学的要因と、薬物・環境などの差によって生まれるものだと思う。
そして、隅角閉塞の結果、眼圧上昇を来し、それが視神経障害を引き起こせば、PACはPACGとなる。治療は、日本においては、現時点では水晶体摘出が一般的だが、EAGLE studyは、レーザー虹彩切開術と水晶体摘出を比較したもので、どちらも有効だが、眼圧・点眼数・視力、追加手術などで水晶体摘出がより有効だったとしているが、当然だろう。レーザー虹彩切開術は、瞳孔ブロックを解除するだけなので、既に発生した周辺虹彩前癒着の多くは開かないだろうし、瞳孔ブロック以外の狭隅角原因も解除しないので。
※ただいつも思うのだけど、日本では殆どレーザー虹彩切開術しなくなり、Spectrumof PAC(sPAC)は、PAC/PACGとなるまで治療されない。そうなると、かなり慎重な経過観察が必要になる。患者さんは、当然無自覚なので、通院動機は乏しく、しっかり病気を理解してくれないと十分な経過観察も簡単ではない。もし、ヤグ主体で行うことでレーザー虹彩切開術による角膜内皮への影響を、あまり考えなくていいのなら、Spectrum of PAC(sPAC)の中の一定以上の症例に広くレーザー虹彩切開術を行うことができて、、瞳孔ブロックを解除しておけば、悲劇が回避できると思うのだけど。もちろん、稀にはじわじわPASが拡大し眼圧上昇きたすことはあるだろうが、悲劇は回避できる。レーザー虹彩切開術されてない全く無症状のSpectrum of PAC(sPAC)がPAC/PACGに移行しないか、チェックし続けるより遥かに安全&確実では・・
※これもいつも思うことだが、隅角閉塞の大きな要因のひとつが瞳孔ブロックだが、これはPASが発生し、それが広範囲になればなるほど、眼圧上昇とともに瞳孔ブロックは減少する。慢性のPACでPASが80%ぐらいある眼の瞳孔ブロックは殆どなかったりする。何が言いたいかと言うと、PACSの中には、瞳孔ブロックの強いレーザー虹彩切開術の適応症例があるが、PAC/PACGの方が、レーザー虹彩切開術適応症例が少ない筈・・ということです。
Spectrumof PAC(sPAC)に急性発作を誘発する可能性のある薬剤は非常に多く、これも注意が必要とされている。もちろん一番危険なのは、散瞳剤です。殆どの眼科医は、散瞳する時に、この眼をこの薬剤で散瞳しても大丈夫か・・・と考えなら、ミドリンPを使ったり、ネオシネジンにしたり、それも1回だけ使用して、検査後すぐ縮瞳確認したりと、かなり気を使っています。ただ、散瞳剤などと比べると遥かにその散瞳効果が弱いと思われる薬剤は多数存在しますが、いつも、どれほどの危険性があるのだろう。例えば、前房深度が1.8mm以下で、虹彩のforward bowingがあり、隅角がスリット状にしか開いてないか、ITC(+)の眼なら、最後に一押しされて急性発作誘発もあるだろうが、前房深度が2.00mm近くあり、それほどforward bowingもない眼なら、あまり抗コリン作用のある内服薬を禁忌扱いにするのは過剰反応ではないだろうかと思う。本当は眼科医の管理下にないから危険なのだけど・・
【狭隅角眼(原発閉塞隅角症疑い)⇒抗コリン作用薬剤禁忌】
という図式はあまりに単純すぎないだろうか。ただ、日本でレーザー虹彩切開術がされなくなり、瞳孔ブロック(+)が放置されたままの原発閉塞隅角病が多くなってくると、中には最後の一押しを抗コリン作用を有する薬剤がしてしまうこともあるかもしれません。だからといって、すべての診療科において、PACS/PAC/PACGには投与禁忌、慎重投与とされている薬剤を投与する前に、眼科医のチェックが必要となれば大変だし、厳密には、そのチェックは、眼科医でも大変だったりするのでは・・・^^; また、水晶体の加齢に伴う肥厚を考慮すると、40歳で安心でも、70歳では危険なこともあるだろう。
このPAC治療の理想と現実の間には、大きな溝がある・・・気がする。

