第30回日本眼科手術学会その1

以前、還暦を迎えた日本臨床眼科学会の報告をしましたが、今回は、冬の京都で行われた日本眼科手術学会の報告です。この会も1978年に第1回大会を大阪医大の東教授が主催されてから、今年で30回を迎えました。手術ごときで学会と名乗るのもどうかなあと感じていましたが、切磋琢磨する機会は人を向上させることは確かで、臨床現場で即効果を発揮してくれることも多いのです。
今回は、白内障・緑内障に的を絞って聴いてきました。
  最初は、忘れないうちに、最終日のセミナーから

教育セミナー26
 緑内障手術-トラブルシューティング
オーガナイザー:桑山泰明(大阪厚生年金病院)、谷原秀信(熊本大)


現在の緑内障というジャンルの正統派重鎮?勢揃いです。手術教育という、ちょっと場違いな場所でしたが、出席してきました。

1、緑内障手術術式の変遷と適応(四谷しらと眼科院長:白土城照)
  最近、個人的に講演を聴くのを最も楽しみにしている先生のひとり、白土先生です。以前はそうでもなかったのですが・・
  緑内障手術の中でも、房水流出を促進させて眼圧を下げる手術の歴史についてわかりやすくまとめていただきました。1856年von Graefeが行った虹彩切除術が偶然20%ほどブレブを形成してしまったことがこの手の手術の始まりだそうです。もちろん顕微鏡も抗生物質もない時代の話で、すさまじい合併症の頻度だったようです。
その後、1958年に房水流出の最大抵抗の場は、シュレム管のすぐ前房側の内皮網であることが判明し、1961年Sugarが現在の代表的濾過手術である、トラベクレクトミーの原型になる術式を行いました。本来この手術は、線維柱帯を切除し、房水をシュレム管に流そうとするものでしたが、結局は、シュレム管ではなく、結膜下にうまく流れたとき(濾過胞が形成されたとき)に高い眼圧下降効果を発揮しました。その後、トラベクレクトミーは、代謝拮抗剤(5FU,MMC)を併用して、飛躍的に成績を向上させましたが、その代償に高率の合併症を伴いました。緑内障濾過手術というのは、この合併症との戦いでもあります。この手術に手を染めることは、戦い続けることを義務付けられます。
この他に、純粋な流出路再建術に近いトラベクロトミー(現在はシヌソトミーを併用することが多いですが・・)、非穿孔緑内障手術(non-penetrating トラベクレクトミー(ノンペネ)、viscocanalostomy(ビスコ)、deep sclelectomy など)、レーザートラベクロプラスティーが症例を選んで行われているのが現状です。
 現在、根拠のある緑内障治療は、眼圧下降のみです。どの程度下げればいいのかと言えば、岩田先生やGreen M の見解によれば、初期なら16-18以下、中期は14-16以下、末期なら12-14以下、正常眼圧緑内障なら、更に20%以上の眼圧下降と言われています。すると、レーザートラベクロプラスティーは、初期緑内障にしかできない。中期までなら、トラベクロトミーーやビスコ。中期以降ならトラベクレクトミーしか選択できないことになります。
 我々は、まず薬物治療で、なるべく進行させないように努力し、不十分であれば手術を選択せざるをえないですが、緑内障がまだ初期であれば、合併症の非常に少ない、トラベクロトミーやビスコを積極利用できますが、中期以降になれば、合併症覚悟でトラベクレクトミーーを行わざるをえないのです。

2、トラベクロトミー手技上のトラブルシューティング(関西医大枚方、松村美代教授)
 この手術は、眼圧を15以下にすることは難しいですが、非常に安全に15前後にすることができます。非常にマイナーであったこの手術は、かつて天理よろず相談所におられた永田先生とその一派の先生方の尽力で、全国区の手術に引き上げられました。
 この手術は、シュレム管を見つけて、トレベクロトームを挿入し、回転させるだけなのですが・・。トラベクレクトミーー感覚でやったら絶対失敗します。ポイントがいつくかあるのです。特にシュレム管という若干へしゃげた管を見つけることが重要で、これができれば、8割以上成功でしょうか。強膜に4×4mm程度のフラップを作るのですが、そのフラップの厚みを全層の4/5以上にするのです。といっても、現実は、殆どぶどう膜が透けて見える(一部露出するぐらい)程度の分厚い強膜弁を作るのです。十分に分厚いフラップが作成できると、自動的にシュレム管外壁が外れて、内壁が見えてきます。もしこれが見つからなければ、どうするか。ここがポイントです。
見つからない理由には、二つあり、ひとつはフラップが浅い。もうひとつは、まだもっと前方にシュレム管がある場合です。シュレム管は、12時付近でもっとも輪部から離れ、3時9時でもっとも輪部に近づきます。また、先天緑内障で角膜が大きくなっているケースでは、かなり後方に位置しています。十分透明角膜にまで進めているのに見つからないなら、浅い(フラップが薄い)ので、もう少し厚くフラップを作るのです。通常double flap といって、2枚に分けてつくるのですが、3枚目を作ってもいい。確実なのは、リカバリーフラップを横に作ることだそうです。
 次は、ロトームの挿入です。シュレム管のカーブにあうような大きさのもの(通常は15mmのもの?)を選びます。決して、ぐっと押し込まない。シュレム管内壁に沿うようにそっとおいて、そっと押す。先が入れば、とんとんと少しづつ押してゆく。確実に入れば、独特の角度でロトームが立ち上がり、しっかりしますので、わかります。フラフラしているようでは、入っていない。
 そして、ロトームを少し戻して、シュレム管挿入部分を支点にして回転する。回転といっても、最初は、下にどんと落とす感じで、先端が前房内に出てきたら、回転させる。
合併症が殆どない術式ですが、ロトームを回転するときに、デスメ膜が剥がれないように注意しないといけません。この手術は、うまく線維柱帯が切開されると前房に出血します。これが大きなデスメ膜剥離内に溜まるとちょっと恐ろしいことになるようです。ちょっと怖い写真を見せていただきました。

3、トラベクレクトミーの合併症対策(岐阜大:山本哲也教授)
 もはや伝統の技って雰囲気です。トラベクレクトミーひと筋うん十年?さまざまな術式にチャレンジする人が多い中、この伝統の技一本に磨きをかけ続けておられるようです。
 最大の合併症対策は、合併症を起こさないこと。起こさないといっても、高頻度で起こるのが運命ですが、それでも最小限にとどめる為の方策を述べられました。
まず、過剰濾過を起こさない、濾過胞からの漏出を起こさない為に。
制御糸をかけ、十分な術野を確保し、角膜から8mmは離れた位置で、結膜はテノンと一緒に切開し、丁寧に丁寧に結膜を扱う。セッシも無鈎?のようです。絶対に穴を開けてはいけない。
強膜フラップも完全を目指す。均一な厚みのものをつくり、タイトに縫う。
それでも、晩期の濾過胞感染から逃れられないのですが・・・

4、濾過胞再建術の合併症対策(大阪厚生年金病院眼科部長:桑山泰明先生) 
 ちょっと喪黒福三風ですが、日本を代表する緑内障サージャンとして、絶大なる信頼を集めておられます。私はとても尊敬しています。今回は、濾過胞再建術というちょっと厄介な手術についてです。
 トラベクレクトミーは、濾過胞をつくりますが、それが徐々に縮小していくことがしばしばあります。当然濾過効果が減少します。それを見過ごしてしまうことも多いのですが、これを何とか再建しようという試みです。非常に面倒です。厄介です。でも、積極的に面倒がらずにトライされている姿には、頭が下がります。
 濾過胞がその機能を失うのは、何故でしょうか。トラベクレクトミーという手術は、房水を線維柱帯切除部、強膜弁下、結膜下、さらに後方へ・・と流す手術ですが、途中で瘢痕化が生じ、その流れが遮断されます。この遮断がどこで起こっているか推測し、結膜下で生じていると判断されたら、針でそれを外すのがニードリングです。簡単な操作のようですが、これが結構有効らしく、30%ほどは効果がある。駄目ならまたすれば、また30%ほど効果があるようなのです。何度も何度もやり続けてもいいのでしょうが、QOLを考慮して、2回までにされているようです。
 もっと面倒なのは、観血的濾過胞再建術。基本的には、トラベクレクトミーをもう一度同じ部位でするようなものです。結膜を切開し、瘢痕が生じている部分を外してゆく。結膜に孔をあけないように細心の注意を払いながら。分厚い瘢痕組織は除去し、MMCを塗布。癒着を外して、強膜フラップを開き、房水流出を確認し、軽く閉じる。少し過剰濾過気味に仕上げる。2年生存率60%。トラベクレクトミーは、原則、上方2箇所しかできないので、ひとつの濾過胞を大切にすることが必要です。これを積極的にやりだすと、大変でしょうが、今後も頑張っていただきたいものです。
by takeuchi-ganka | 2007-01-28 20:40 | 学会報告 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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