2007年 03月 31日
当院の検査機器の紹介:HRTⅡ(その5)
ただ、逆説的な言い方になりますが、緑内障を管理していく上で、一番重要なことは、緑内障が進行することを認めることだと思っています。緑内障を絶対に進行させまいと、その進行速度を限りなく零にしようとして、治療手段を選択していくと、確実に過剰治療となります。
例えば、ある程度進行した緑内障。眼圧25と高いので、点眼1剤入れて22になった。まだ高いから2剤入れて18、まだ高いから3剤入れて16。眼圧は1mmHgでも低いほうが悪化速度を低くできるというエビデンスの為に、更に手術する。こんなことをしていては大変なことになります。治療は、一生続くのですから、点眼が増えると、第一面倒です。おおよそ決まった時間に点眼を一生続けないといけないのです。眼圧を数mmHg下げる代償に、この面倒さに加え、副作用も受け止めないといけないのです。しみる・かすむ・充血する・痛む・睫毛が長くなる・瞼が黒ずむ、瞳の色が変わる・運動能力が低下する?・・・などなど様々です。
その後、手術?になるとすれば、術式にもよりますが、かつて(今も)もっと多数行われたマイトマイシン併用トラベクレクトミーの場合、術後感染の頻度は、他の術式より飛躍的に多く、時に失明の危機に瀕します。

このように緑内障進行を零にする代償は、大きすぎるのです。だから、緑内障を管理するということは、緑内障の進行をある程度認めることなのだと思います。そこで問題になるのは、認めていい緑内障進行の程度です。中々難しいですが、ここが治療のポイントでしょうか。通常、この進行速度というのは、視野で判定します。今、一番客観的な方法として認知されているのは、先ず視野のデータを数値化します。代表的な数字が mean deviation (MD) と pattern standard deviation(PSD)です。視野データを数値化した場合、多くの数字を含み、個々の数字について、良くなったとか悪くなったとかの判断もできるのですが、もっと大まかに緑内障が悪化したかどうかを判定する数値として認知されているのは、このMDの推移です。繰り返し検査を行い、測定されたMDをグラフ化し、その傾きで判断するのです。ここに提示したグラフは、以前一度アップしたものです。無治療の緑内障眼は、年に0.6dB悪化すると報告されています。仮にこれを採用すると、この症例の場合、このままだと、62歳ぐらいで、MD-15dB以下という危険ゾーンに入ります。それで、治療して、悪化速度を年0.25dBとか0.17dBにするよう努力するのです。それが可能になれば、危険ゾーンに入るのを80歳代や100歳近くにまでもっていくことが出来て、少し安心できる・・・?のです。すると、許容できる悪化速度は、この患者さんの場合、年0.2dB前後でしょうか。
こんな厳密な計画を立てることは実際には困難ですが、臨床現場でも、大体こんなイメージを描きつつ、治療計画をたてるのです。
この視野データを解析して、緑内障の悪化速度を解析する方法は他にもあるので、別の機会にまた紹介しますが、ここでは、HRTⅡを用いた緑内障進行の分析方法を紹介します。前置きが長くなったので今日はここまで。