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新医師臨床研修制度(スーパーローテイト)について

 この制度ができるまでは、研修医の7割は大学病院へ行きました。一般病院は、大学の関連病院であれば、大学から医師の派遣を受けることができて、大学としても、医師の就職先を確保できて、双方に利益があったのだと思います。

 この制度によって、平成16年度以降の研修医の行き先が大きく変わりました。下記データは、厚労省の発表した研修医の行き先のデータです。

             平成15年度       平成18年度
臨床研修病院  2243名(27.5%)   4266名(55.3%)
大学病院     5923名(72.5%)   3451名(44.7%)


 ※このように、平成15年までは、特に問題なかったのですが・・・・


 私は、地方の国立大医学部を卒業して、とある関西の?大学の眼科学教室に入りました。主任教授は、非常に立派な先生で、臨床・研究・教育の3本柱を高度なレベルで実践しておられました。まず、1年間、大学で、基礎の基礎を叩き込まれます。主任教授が、助教授が、講師が、先輩の助手が、一般臨床病院の医師からすれば、少々まどろっこしいような、基本に忠実な医療を見せてくれました。時間をかけてアナムネをとり、必要な検査を行い、診断へ到達する。その後治療計画をたて、治療を実践する。或いは手術計画をたて、手術を行い、術後の経過観察等々・・。何もかも、基本に忠実で、十分に時間をかけて行います。入局してから10年ぐらいは、朝8時過ぎから、夜12時近くまで、病院に張り付いていた記憶があります。いつも一緒に遅くまでいたのは、K先生、O先生・・・。長く病院にいると、先輩の貴重な意見を聞けるチャンスもあり、同僚の困った状況を見るのも勉強、急患がやってきて、当直医が悪戦苦闘しているのを見るのも勉強・・・、とにかく、長くいればそれだけで勉強するチャンスが多いのです。しかも無料で・・・
 そんな忙しい生活の中で、学会発表をし、それを論文にまとめたりしなければなりません。これは、ある意味大学病院の使命です。それは、珍しい疾患の報告であったり、教室の治療成績をまとめたものであったり、色々です。ただ、その学会発表に持っていく過程や論文作成過程そのものが、勉強になるわけです。ひとつの論文を作成するには、多くの関連論文を読まねばなりません。論文へと仕上げる作業は、医師として(大げさに言えば、科学者として)正しいものの考え方を覚えることにもつながります。更に、医学博士になる為には、大学院に入る正攻法と、通常の業務をこなしながら、合間に実験する非正攻法?とがありますが、私は、臨床から一日も離れたくないとう思いがあり、後者を選び、しばらくカニクイサルと格闘した思い出があります。できの悪い私の場合、医学博士を取るのに9年もかかりましたが、大学には、毎年10名前後の入局者があり、研修がすめばすぐに去っていくもの、10年以上在籍し、それなりのポジションを与えられるもの、何十年も在籍しているもの・・色々ですが、教室としては、そうやって育て上げた数十名の医師団を抱えていたのです。この医師達は、教授の采配により関連病院へ派遣されるのです。近隣の病院もあれば、遠隔地もあるのです。誰も、逆らいません。
スーパーローテイトを否定するつもりはありませんが?、古い考え方の私は、この大学病院での修行の日々は、(教授が優秀であれば?)真っ当な医師を育てるのに適したシステムであったと感じています。新しい研修システムは、研修医を大学から一般病院へと流すことになり、皆、大学に残りません。直ぐに安定した収入があって、かつスキルが磨けるところへ行くのです。ここがポイントのようです。私も、卒業したてなら、そう考えたかもしれません。でも、スキルさえ磨けて、一刻も早くスペシャリストになれればそれがゴールですか?ここが問題です。
結果として、大学は、決定的に人材不足となり、派遣先の病院から医師を引き上げざるを得なくなりました。その影響で、閉鎖に追い込まれた病院の数はどれほどになったでしょうか。
主任教授が、君悪いけど、しばらくここへ行ってくれるかなあ・・・と言われれば、数年程度、田舎の病院勤務は当たり前だったのですが、研修医が自分で行き先を決めるとなれば、当然都会に集中してしまいます。本音を言えば、見も心も未熟極まりない研修医には、『修行』が必要です。それを、一人前の給料を与え、手っ取り早く即戦力になるようにスキルを磨かせる。私には、まともな医師が育つ気がしません。スキルにだけ長けた医師が増え、大学病院は、その機能を失い、地方の公的病院は閉鎖に追い込まれる。この責任は、研修医じゃなくて、厚生労働省でしょう。実態を把握せず、将来の展望をもってない。10年後が、日本の医療はどうなっていることやら・・
by takeuchi-ganka | 2007-05-10 18:45 | その他 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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