スリーサム イン東京(その1)

 何度か出席したスリーサムですが、今回は、in東京です。この学会は、時に眼薬理を加えて、フォーサムと名称を変えたりしつつ開催されていますが、今回はスリーサム。つまり、眼炎症・眼感染症・コンタクトレンズの3つの合同学会です。小さな学会では、参加者や会場の確保が難しいから合同したのかどうかは知りませんが、この3つの組み合わせは絶妙です。各々単独では、マニアックに走りすぎる学会を3つ組み合わせることで、私のような一般開業医にも門戸を開いていると感じさせて、参加する気にさせてくれます。

 先ず、炎症。一番ありふれた病理で、角膜炎・結膜炎・虹彩炎・網膜炎・・・どれも一般開業医にとっても重要な疾患です。しかも、感染性・非感染性の両方があるのですから、眼炎症・眼感染症は密接です。それにコンタクトレンズ。好むと好まざるに関わらず、コンタクトレンズ装用者は、眼科を受診されます。私の管理の下にコンタクトレンズ装用をしている人は、滅多にコンタクトレンズ関連の大きな合併症を引き起こすことはないですが、コンタクトレンズ購入元が怪しげで、定期検査を殆ど受けていない人は、しばしば合併症を引き起こしては、眼科を受診されます。中でも、感染性角膜炎というのが、最も重症で、時に失明にまで至る訳ですが、コンタクトレンズと眼は、コンタクト(接触)しているので、常に、傷つけたり、炎症を起こしたり、時に感染したりします。このように眼炎症・眼感染症・コンタクトは密接に結びついているのです。

 チョット話がそれますが・・・
 所謂コンタクトレンズ診療所と呼ばれる、なんだかよくわからない存在があります。これがチョット曲者で、一般の人は、ここをコンタクトレンズを専門に扱っているクリニック。つまり専門家という位置づけをされるかもしれませんが、果たして、本当の専門家はどれ程いるのでしょうか。勿論、有名な濱野先生のような真の専門家はおられるのですが、そうでない、時に眼科医そのものとしても怪しげな医師の管理のもとに運営されている診療所が非常に多数あるやに聞いています(婉曲的に・・・・)。恐ろしいことです。一般の人とって、コンタクトレンズは、商品であるという側面が、医療用具であるとう側面よりも圧倒的に大きいのです。我々眼科医は、医療用具だと考えますが、一般の人には、単なる商品にすぎないので、専門店で買おう、できれば、少しでも安く入手しようと考えます。眼科医だって、仕入れは安くしたいと思うのですから。ただ、コンタクトレンズ診療所は、我々の仕入れ値よりも安く売っていたりします。その詳細なメカニズムは知りませんが、安く買えるから安く売れるのでしょう。こんなところで文句言っても始まりませんが、もし、国がコンタクトレンズを建前だけ医療用具だとして、真っ当な眼科医を法律で無駄に縛るぐらいなら、コンタクトレンズ装用者の安全確保の為に、コンタクトレンズ販売は、眼科専門医に限るとすれば如何でしょうか。

スリーサム イン東京(その1)_f0088231_15354958.jpg こんなことを思いつつ、朝6時のN700系に乗って東京へ向かいました。この新車両は人気があるのか、朝6時なのに、満員です。N700系はとっても速く、9時からのシンポジウムに余裕で間に合いました。





日本眼炎症眼科学会
シンポジウム2 眼炎症・薬物治療の最前線

オーガナイザー:下村教授(近大)、大黒准教授(阪大)

1、アレルギー性結膜炎(藤島:国際医療福祉大)
 治療の基本は、抗アレルギー剤の点眼だが、第一選択薬は、抗ヒスタミン(H1)薬点眼
 重症例では、ステロイドや免疫抑制剤。
 重症例では、免疫抑制剤を使用(併用)することで、ステロイドの減薬(離脱)が可能で副作用を軽減できる。もうひとつの免疫抑制剤(FK506:タクロリムス)は更に有効らしい・・・

2、角結膜炎(福田:山口大)
  感染性と非感染性(免疫原性・アレルギー性)に分かれる。感染には、抗菌剤のような抗微生物薬が、アレルギーには、抗アレルギー・ステロイド・免疫抑制剤が用いられる。そのほか、上皮修復やドライアイにも新しい薬が登場しているが、角膜潰瘍に対しては・・・・
 角膜上皮が障害をうけると(つまり角膜潰瘍の場合)、角膜の実質細胞が細菌の構成成分に反応して、IL-8やICAM-1を産生し、好中球を誘導し、コラーゲン融解へ。この潰瘍を悪化させるメカニズムは、既に細菌がいなくなっても継続するので、ここを止める薬物(triptolide)が、新しい治療薬の可能性をもつと。

3、強膜炎(竹内:東京医大)
 狭義の強膜炎(つまり上強膜炎を除く)
  ・前部強膜炎
    びまん性(約20%)・結節性(約60%)
    壊死性(約10%)・非壊死性
  ・後部強膜炎

治療薬としては、
①非ステロイド性抗炎症薬点眼、ステロイド点眼
②Cox2阻害薬
③ステロイド内服
④免疫抑制剤
などがあるが、70%以上で、ステロイド内服・免疫抑制剤が必要。

※TA結膜下注射は、特発性の非壊死性・結節性に限り有効?(何に使っても有効だという意見も・・・壊死性に使ったらあかんというのは、古い大家の言い伝え?)
※パピロックミニは、有効だった。ただ、この製剤は、濃度が低く、自家製剤で2%程度のものを使用すれば、もっと有効かも・・・

そこで新しい治療薬として、
1、TNFα1阻害薬:Etanerceptや Infliximab
2、Bリンパ球活性化阻害 リツキシマブ(rituximab)(抗CD20抗体)
3、Tリンパ球活性化阻害:ダクリズマブ(daclizumab)
などが、応用を期待されているようです。名前が聞きなれないものばかりで、間違っているかもしれません。ただ、〇×・・mabとう名が多いようです。最近、関節リウマチの薬の開発が目覚しく、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ではなく、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)とうジャンルが注目されています。上記以外にも、非常に多数の新薬が開発途中にあり、強膜炎という分野は、当然その応用が期待されるのでしょう。

4、ぶどう膜炎(丸山:近大)
既存薬として、ステロイド、コルヒチン、シクロスポリン
当然ながら、ステロイドを多用することになるが、問題になる副作用として、
①糖尿病、
 一般人に糖負荷試験すると、糖尿病型が20%前後、境界型が30%前後。つまり、半分ぐらいが、耐糖能障害がある。これを前提にステロイドを投与すべき。特に、ステロイド投与が長期にわたる場合、注意せよと。
②骨粗鬆症
 プレドニン5mg/日3ヶ月以上の場合、予防的治療が必要。
 BSP(ビスフォスフォネート)、活性型ビタミンD・・・

新しい治療薬
1、抗TNFα Infliximab
これは、田辺製薬から既に関節リウマチ薬として発売されているレミケードです。
07年1月からベーチェット病に使われて、有効なようです。
副作用:結核の発症には注意が特に必要(発症率8倍になるらしい・・)で、その他感染性肺炎の発症にも注意が必要。
2、顆粒球除去(GCAP)
    これは、潰瘍性大腸炎の治療で使われている治療で、攻撃的になった白血球を血液から取り除こうというものです。副作用が少なくて有効なようです。薬物を投与するのと違い、血液を一旦、体外に連続的に取り出し、炎症に関与している顆粒球を選択的に除去する顆粒球吸着器)通し、その後血液を体内に戻します。期待してしまいますね。

5、眼内悪性リンパ腫(大黒:阪大)
 眼内の悪性リンパ腫には、
1、原発性中枢神経系悪性リンパ腫(primary CNS lymphoma)
2、中枢神経系以外からの眼内転移
があり、原発性中枢神経系悪性リンパ腫が網膜に原発したとき、原発性眼内悪性リンパ腫(primary intraocular lymphoma, PIOL)と呼ばれています。このPIOLは、まれな病気ですが、急増中だそうです。ただ、診断はなかなか困難です(疑うかどうかが問題なようで、ステロイド抵抗性の硝子体混濁なら、必ず疑うように・・・と)。硝子体炎が必発で、前房にも細胞がでます。トゲトゲした感じのKP。時に網膜下に浸潤(これは予後不良のサインのようです・・)。
そして、
・先ず、脳内病変の有無をチェック
・硝子体生検(気をつけないと細胞を破壊します)
  細胞診とサイトカインをチェック(IL-10/IL-6>1.0)
治療
1、眼病変の寛解
  放射線が基本だったが、MTXの硝子体内投与に変わりつつあるようです?
2、脳病変予防(MTX髄腔内投与)
Commented by kurume-jin at 2007-07-09 23:40 x
 学会報告ありがとうございます。待ってました!。
 以前、東京ー新大阪間を度々往復していましたが、平日の始発(新大阪→東京)と金曜日の最終(東京→新大阪)新幹線のぞみは、結構サラリーマンでいっぱいでした。丸の内あたりの会社だと始発で9時の会議に間に合うし、金曜夜はおそらく単身赴任のお父さん達(みんなビールとお弁当を買って乗り込んでいました)の帰宅便になっていたのでしょう。
Commented by takeuchi-ganka at 2007-07-13 17:00
非専門分野の偏見に満ちた報告であることを前提に読んでね。
Commented by オグラ at 2013-09-17 01:03 x
リンパ腫で検索、ヒットしブログを拝見しました。
私の母が、昨年暮れに眼内悪性リンパ腫の疑いで硝子体手術をしました。結果は、疑いのままで退院となりました。それから1ヶ月して、妄想、家族の事も分からなくなり、誰かに常に監視されている、とおかしな事をいいだし、精神病院に隔離されました。その時の脳はかなりmriで浮腫がありました。それから2ヶ月弱で腫れが少しひき、また家族と過ごせるようになりました。あの頃に比べていまはかなり幸せに思いますが、またいつ悪化するか、と気が気ではありません。目にもまた少し白濁が生じ、炎症が起こっています。
茨城県に住んでおります。先生の病院が近くでしたら直ぐにでも予約したいのですが。
長文申し訳ありませんでした。
これからも頑張ってください
Commented by takeuchi-ganka at 2013-09-18 08:38
コメントありがとうございます。たとえ私の医院が近くにあっても、私はお役に立てそうにありません・・・。お母様の病状が少しでも改善される事を祈ってます。
by takeuchi-ganka | 2007-07-09 15:43 | 学会報告 | Comments(4)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
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