緑内障診療 その1

今頃
Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study (CNTGS) 
に、ついて

 『30%眼圧下降させれば、緑内障は悪化しないとう』神話を生み出したスタデイです。お配りものパンフレットを参考にしつつ個人的な見解を述べてみます。
 ここでのNTGとは、10回測定して全て<24mmHg、平均16~17mmHgというもので、日本のNTGの大多数よりも眼圧は高めです。230例230眼がエントリーされ、無治療で悪化した145眼を治療群(66眼)と無治療群(79眼)に。 ※治療:30%以上の眼圧下降を目標(6年間)(手術した場合は、20%以上でもOK)

治療群  66眼中54眼80%が 視野悪化なし
無治療群  79眼中16眼20%が 視野悪化なし。


  →治療群の方が、有意に視野を維持できた!
  →つまり、30%以上の眼圧下降をすればいい?

 ただ、見方を転換すると、エントリーした230眼中、85眼は無治療で悪化なし。無治療群の視野生存率(20%)から判断すると、最初に、無治療で進行したので、治療群/無治療群に割り当てられた145眼中の20%29眼の視野は悪化しないと推定されるので、最初の230眼中、85+29=114眼、ほぼ半分は、たいして進行しないと判断できる?

 つまり、このCNTGSは、30%以上眼圧下降させないと緑内障は進行するという、日本NTG事情からすれば、とんでもなく高いハードルを課したかと思えば、放置しても半分は大丈夫だという低いハードルも提供しているようなのです。だとすれば、緑内障の治療効率はかなり悪いということになります。放置しても半分は、大丈夫だけど、残り半分を、進行させない為には、30%もの眼圧下降を必要とするということなのでしょうか。

 実際に私がどうしているのか考えてみます。
NTGを見つけると、まず、ベースライン眼圧を念入りに測定します。これは、基本中の基本であり、これなくして治療はあり得ない。だって、眼圧を下げるのですから、どの値から下げるかが分かっていないと、下がったのか下がっていないのか判断できませんから。幸い、小さな眼科なので、近所の人が殆どですから、毎週1回とか週2回測定とか、こまめな眼圧測定が可能です。3-4回測定しても、ベースライン眼圧決定は1か月以内に終了します。
 その後、緑内障点眼をチョイスします。20年前ならB製薬のT点眼薬がファーストチョイスでしたが、今は、やはり、P製薬のX点眼薬でしょうか。片眼トライアルを重視したこともありましたが、現在はそれほど重視していません。
 治療後は、点眼による副作用がないかどうか(接触性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、角膜上皮障害など・・)をチェックした後、眼圧下降の程度を判断します。勿論30%近く下がれば問題ないですが、20%以上なら、許容範囲内と考えています。20%以下だと若干眼圧下降作用に懐疑的な気分となります。10%以下だと無効と考えます。懐疑的な気分になった場合は、本当に有効なのかどうか、片眼中止・両眼中止など、試行錯誤をしつつ、その有効性を判断します。眼圧下降は不十分だけど、無効ではないと判断されたら、さらに追加するかどか悩みます。PG製剤がファーストなら、次は、β遮断剤かCAIです。それ以外のチョイスも零じゃないですが・・・。
 ここまでは、ただ、眼圧のみの判断ですが、勿論、経過をみながら3-4カ月に一度は視野(ハンフリー30-2)を測定します。この視野の変化の判定が緑内障診療の要諦なのですが、昔は、プリントされたデータをパラパラと眺めていたのですが、東京のビーラインという会社が、この視野結果をかなり細かく・客観的に、しかも短時間に判定できるソフトを提供してくれたので、このソフトを立ち上げて、結果を数十秒眺めて、判断しています。
(この会社には、数多くの緑内障の重鎮達の意見をよく聞いて、本当に使いやすい道具を作ってくれたと感謝しております。私は、これなくして緑内障診療ができないと言っていいほど依存しています。これが保険点数に反映されないのが難点ですが・・・)
 緑内障の治療目的は視野維持であって、眼圧下降ではありません。視野が維持できれば、眼圧なんかどうでもいい(?)のです。だから、長々と述べたように眼圧下降の程度は非常に気にしつつも、視野が維持できていれば、それでいいと考え、不十分な眼圧下降でも、点眼剤を3剤4剤と増やすことだけはしないように心掛けています。
ちょっと眺めたお配りものパンフレットに触発された一文です。
 
Commented by 研修医 at 2008-02-04 21:44 x
多治見スタディ、久米島スタディーしか知らなかったけど海外には
面白いスタディがあるんですね。
1つ驚いたのは、病気と分かっていながら6年間も治療をせず悪くな
ってる点。患者は納得したんでしょうかね。
1つ疑問に思ったのは、最初の割り振りで無治療で悪化したのに
無治療を続けても視野の悪化がない人が80%もいる!という点。
私は無治療の緑内障の視野は右肩上がりに悪くなってくると思って
いたのですが、殆どの場合、初期の視野変化で止まるということです
よね。ホントでしょうか?

無治療群  79眼中63眼80%が 視野悪化なしでしたら 145眼中
126眼悪化なしでは?


Commented by takeuchi-ganka at 2008-02-04 23:03
ちょっと記載ミスがあったようで、失礼しました。
こちらを読んでください。
Collaborative Normal Tension Glaucoma Study Group. The effectiveness of intraocular pressure reduction in the treatment of normal tension glaucoma. Am J Ophthalmol 1998;126:495-505.
Commented by パロ at 2019-05-07 17:10 x
無治療でも半数は進行しないのに失明の恐怖をちらつかせる必要があるのでしょうか?
このことによって精神的疾患を誘発するリスクもあるのに。
Commented by takeuchi-ganka at 2019-05-10 20:02
平均的な速度で進行した場合、失明とはいかないまでも、QOLに大きな影響を与えそうと思われる場合は、そのように伝える必要がありますが、ことさら恐怖をあおるのは問題ですね。
Commented by パロ at 2019-05-13 09:51 x
回答ありがとうございます。
先生のブログでいろいろ勉強させていただき必要以上にあまり怖がりすぎるのもよくないなと思うようになりました。
決して軽く考えようと思いませんが。
最初に診断した医師は
「正常眼圧緑内障です。」と説明パンフレットだけを渡し、「生涯、点眼です」とさらりとおっしゃいました。
生涯という言葉の重みが分かっていらっしゃるか?
翌日、訪れた緑内障専門医は診断のあと、しょげていると
「何をそんなに落ち込むのかわからない」と。
私としては癌を告知されたくらいのショックなのに。
きちんと説明していただき、もっといたわりのある言葉を使えないものでしょうか?
愚痴になってすみません。
今後も有益な情報を発信してくださることを期待しております。
Commented by takeuchi-ganka at 2019-05-13 21:48
おっしゃる通りですね。我々眼科医は簡単に緑内障ですと言い過ぎですね。この緑内障という言葉を患者さんがどう受け止めるか、もう少し考えた上でお話する必要がありますね。私も更に気をつけます。
Commented by パロ at 2019-05-14 04:31 x
誠意のあるコメントありがとうございます。
先生にお世話になれたらどんなにいいかと思いますが、大阪では通えないので残念です。
今後ともよろしくお願いいたします。
by takeuchi-ganka | 2008-02-04 15:36 | 緑内障 | Comments(7)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31