トラバタンズ点眼液0.004%発売1周年記念講演会 (313)

10月18日、東京五輪開会式の青空もかくありなん・・・と思われる透き通った青空の東京にいました。日本の緑内障点眼市場が、キサラタンに席巻されて久しいですが、プロスト系の2番手が登場して1年経過したことを受け、記念講演会が東京で開かれました。演者・座長は高名な先生ばかりで、いい勉強の機会を与えて頂いた日本アルコンに感謝します。


テーマ:緑内障薬物治療はどう変わった、どう変わる

1、トラボプロストの眼圧下降効果 相原先生
 この点眼の眼圧下降効果が、あの強力な眼圧下降効果を示すキサラタンと比べてどうかというのが、気になるところですが、数多くの発表を総合的に判断すると、同等(或いは若干上?)ということのようです。
 FP受容性に対する親和性が眼圧下降に深く関連するとすれば、トラボはラタノを上回るフルアゴニストで、点眼中止後の眼圧下降持続効果もラタノを少し上回るようです。眼圧日内変動に対する効果も十分で、ほぼフラットな眼圧にするようで、開放隅角緑内障ばかりでなく、閉塞隅角緑内障にも有効だとか・・・・。(ただ、これに関しては、PASが広範囲にあればあまり効かない筈だと思うのですが・・・)
 加えて、日本発売のBACフリーのトラバタンズは、BACがもつ有害な作用がない分アドバンテージがある。私が、末席に加わったラタノからのスイッチングによるスタデイでも、眼圧はほぼそのままで、よくみれば多数存在していた軽度のSPKがスイッチ後消失しました。充血が問題になりますが、これをどう捉えるか。これがFP受容体刺激と関連するのなら、眼圧が下がる分充血する?でも、角膜には優しい。ドライアイ素因のある人にはこちらがファーストチョイス?
 いずれにしても、ラタノ一剤だったのが、選択肢が増えたのはいいことで、同じジャンルの薬剤ですが、眼圧下降効果には個人差があるようで、ラタノ無効例の2割ぐらいには有効とも言われていますので、緑内障患者さんにとっては、福音? もう間もなく発売のタフル、その後出るであろうビマトなどが、其々のノンレスポンダーを補完すれば、頼もしいかも?

Kaback M, Geanon J, Katz G, Ripkin D, Przydryga J; START Study Group.
Ocular hypotensive efficacy of travoprost in patients unsuccessfully treated with latanoprost.
Curr Med Res Opin. 2004 Sep;20(9):1341-5.

Lewis RA, Katz GJ, Weiss MJ, Landry TA, Dickerson JE, James JE, Hua SY, Sullivan EK, Montgomery DB, Wells DT, Bergamini MV; Travoprost BAC-free Study Group.
Travoprost 0.004% with and without benzalkonium chloride: a comparison of safety and efficacy.
J Glaucoma. 2007 Jan;16(1):98-103.

Holló G, Vargha P, Kóthy P.
Influence of switching to travoprost on intraocular pressure of uncontrolled chronic open-angle glaucoma patients compliant to previously-used topical medication.
Curr Med Res Opin. 2005 Dec;21(12):1943-8.

Kumar RS, Istiantoro VW, Hoh ST, Ho CL, Oen FT, Aung T.
Efficacy and safety of a systematic switch from latanoprost to travoprost in patients with glaucoma.
J Glaucoma. 2007 Oct-Nov;16(7):606-9.


2、トラボプロストの点状表層角膜症 吉川先生
次の講演は、Phakic IOL とBACが嫌いな座長(東大眼科教授)の紹介で始まりました。ラタノは非常に強力な眼圧降下を有する反面、0.02%のBAC濃度(トラバタン(米国)も0.015%程度?)の為、SPKは避けられない。クリニックで緑内障患者さんを調べたら、42%ぐらいにSPKがあり、ドライアイ素因をもつ人に多く、使用点眼としては、ラタノとチモが多かった。また点眼瓶というのは、汚染されやすく、10%程度は汚染されているようなので、BACに代表される防腐剤が必要。ただ、BACは点眼瓶内では、防腐剤として働くのですが、点眼後は、非選択的細胞膜障害剤として働くので、注意が必要。ドライアイ素因があり、角膜上皮に易障害性があれば、BACにより容易にSPKが引き起こされるかも・・・。 トラバタンズが誇る?Sofziaという防腐システムは、点眼後の細胞障害性を有さない!?
 吉川先生のグループは、ラタノからトラボへのスイッチングによる角膜上皮障害に与える影響をNIH分類で詳細に検討されていました。立派な発表です。これによると、2週間で、スコアが1.4⇒0.7へと半減し、その後3ヶ月間維持されたと。眼表面に弱点のある眼(ドライアイ・糖尿病)には、いい適応だと。
※NIH分類:Lemp MA.:CLAO J. 1995 Oct;21(4):221-32.
Report of the National Eye Institute/Industry workshop on Clinical Trials in Dry Eyes.


※使用点眼中のBAC濃度×点眼回数/日の総量を問題にして緑内障治療すべき?
※1分間シルマー試験:外来の流れを妨げずできるドライアイチェックとして有用。
One-Minute Schirmer Test With Anesthesia. Cornea. 22(4):285-287, May 2003. Bawazeer, Ahmed M. M.B.Ch.B., F.R.C.S.C.; Hodge, William G. M.D., Ph.D., F.R.C.S.C.


3、トラボプロストの24時間眼圧下降効果 安田先生
  眼圧は日内変動します。関係ない話ですが、医者になりたての25年前、緑内障患者さんを担当すると、グラフ用紙をカルテに貼って、点眼を中止した後24時間の日内変動を教授回診前にしておくのがノイヘレンの義務でした。不思議なことに、入院すると眼圧が下がるのです。点眼が入っていると、コンプライアンスの問題が解決されて眼圧が下がるのは理解できますが、点眼を中止しても下がったりする。結果として手術適応なしとして、退院になったこともありました。外来で、手術が必要と判断した担当医の気持ちは無視されて・・・・。ただ、入院・安静だけでも、眼圧は下がるということを知りました。このことは、話の本筋ではありませんが、眼圧は日内変動します。一般的には、夜間に下がるようで、変動巾は、4.3±1.6mmHg(1-10)。通常我々が診察している時間帯以外に最高眼圧を示すことが1/3ぐらいあるのだと。この眼圧変動巾は、重要で、これが大きいと悪化しやすい。24時間眼圧でみる眼圧下降効果は、ラタノとトラボはほぼ同等。僅かにトラボがいい?ラタノ、ルミガン、トラボは同等(Van der Valk R 2005)。 朝点眼より、夜点眼の方が眼圧下がる(Konstas AG 2006)。結論としては、トラバタンとトラバタンズは同等。
 安田先生が紹介されたスタデイは、治療前に24時間日内変動を測定し、8週間点眼後、再び24時間日内変動を測定する。ラタノとトラボは同等、僅かにトラボがいい?充血・睫毛延長・眼瞼多毛などはトラボに多い?そして、最後に患者さんにどちらかを選ばせると、どちらでもいいが13人、ラタノが5人、トラボが3人。若干トラボが不利?

van der Valk R, Webers CA, Schouten JS, Zeegers MP, Hendrikse F, Prins MH.
Intraocular pressure-lowering effects of all commonly used glaucoma drugs: a meta-analysis of randomized clinical trials.
Ophthalmology. 2005 Jul;112(7):1177-85.

Konstas AG, Mikropoulos D, Kaltsos K, Jenkins JN, Stewart WC.
24-hour intraocular pressure control obtained with evening- versus morning-dosed travoprost in primary open-angle glaucoma.
Ophthalmology. 2006 Mar;113(3):446-50.


4、緑内障薬物治療:私の戦略 桑山先生
 今回のトリは、桑山先生で、最近の先生の講演は、白土先生とならんで、いつ聞いても関心させられます。
まず、Berdahl JP Ophthalmology 2008 からの引用。
Berdahl JP, Allingham RR, Johnson DH.
Cerebrospinal fluid pressure is decreased in primary open-angle glaucoma.
Ophthalmology. 2008 May;115(5):763-8.

The mean CSF pressure +/- standard deviation was 13.0+/-4.2 mmHg in nonglaucoma patients and 9.2+/-2.9 mmHg in POAG patients (P<0.00005).

 たまたま?脳脊髄液圧を測定することになった多数の患者さんの中の緑内障患者さんについての分析が行われ、どうやら、緑内障患者さんは、IOP>CSFとなっている?!神経線維は、1000本づつ程度の束になり、Lamina cribrosaの孔を通過しますが、この孔が上下では大きく、IOP>CSFであればLCは後方へ屈曲した場合、歪みが強くて神経線維障害を引き起こしやすい。外側膝状体から神経節細胞への神経栄養因子がこれで遮断されると、神経節細胞は、生きていても仕方ないと判断して死にいたる・・・・。これが緑内障の本質だと・・・・・。本当に勉強になります。この一言を聞くだけでも、東京に行った甲斐がありました。だから、眼圧を下げないといけない。OHTS/CIGTS/EMGT/AGIS/CNTGなどで、眼圧下降が有効なのは、当然。

※講演途中妄想が膨らみました。LCは、それほど強靭な組織ではなく、柔軟性に富んだ組織のようで、ビードロの底のように、眼圧の変動、脳脊髄圧の変動に伴い、後方に凸になったり、フラットになったりしているのでしょうか。眼圧を下げるとフラットになるが、高くなると後方に凸に。平均眼圧よりも変動が悪化要因というのも、LCが前後に動くほうが、神経線維に対するダメージが大きいのだと納得できます。かつての、新潟大の機械説対東大の血管説のバトルも、機械説不利?な展開のまま忘れていましたが、やはり機械説が正しい?

そして、緑内障と診断したら、先ず何をするかと言えば、治療しない。治療せずに黙々と眼圧を測定する。 ここで、また、私の関心を惹くマニアックな理屈を。
 眼圧測定に5秒かかるとする。1日は24時間、1440分、86400秒で、1か月は2592000秒。 1か月に一度眼圧測定するとすれば、5/2592000のサンプリング率(0.000193)。緑内障治療においては、眼圧を下げることが全てであり、どれくらい眼圧が下がっているのか判断するには、ベースライン眼圧が非常に重要で、これを知らなければ、どれくらい下がっているか分からないのです。このベースライン眼圧というのは、その患者さんにとって、一生基本になる眼圧です。この重要な眼圧を決める為に何回眼圧を測定するのか?もし月に1回ならサンプリング率は0.000193?3回やったら、0.000579?(少し議論の本筋から離れているかもしれませんが・・・)何回眼圧を測定して平均すれば、真の平均眼圧に近くなるのかという検証の末、3回が妥当だと結論。もう何度も言われていることですが、徐々にその根拠が揺るぎないものになりつつあるようです。とりあえず、なるべく同じ時刻に3回以上眼圧を計測する。一生を左右するベースライン眼圧決定なのですから、3-4回やっても許されるでしょう。そうやって、求めたベースライン眼圧からどれだけ眼圧下降できるかが、治療のポイントとなります。

変動について
①超短期変動
②短期変動:24時間変動/姿勢による変動
③長期変動

※最近、姿勢による変動が注目されていますが、この変動幅が大きいと緑内障は悪化しやすい。AGISの結果も、来院毎の眼圧変動が大きいと悪化しやすい。ところが、EMGTでは、眼圧変動は悪化と関係ない?平均眼圧が問題?Caprioli Jは、眼圧変動こそ悪化要因だと・・・特に低い眼圧の緑内障において・・・

Caprioli J, Coleman AL.
Intraocular pressure fluctuation a risk factor for visual field progression at low intraocular pressures in the advanced glaucoma intervention study.
Ophthalmology. 2008 Jul;115(7):1123-1129.e3. Epub 2008 Feb 20.

Ang GS, Kersey JP, Shepstone L, Broadway DC.
The effect of travoprost on daytime intraocular pressure in normal tension glaucoma: a randomised controlled trial. Br J Ophthalmol. 2008 Aug;92(8):1129-33. Epub 2008 May 29.


最後に、トラボの特徴として、
1、BACフリー
2、持久力:1回点眼後、眼圧を下げ続ける力が、ラタノより少し上らしい・・・。

by takeuchi-ganka | 2008-10-19 19:42 | 学会報告 | Comments(0)

大阪市旭区にある竹内眼科医院です。開業医も日々勉強。


by takeuchi-ganka
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31