2008年 10月 25日
それでも地球は回っている・・・的発想?(315)
数年前から、この分野に全く疎い私が、眼科コメディカルのスクーリングでこの分野を担当させていただいており、調節について何度も何度も同じ内容の話をしています。
調節メカニズムとは・・・
調節時(近くを見るとき)
⇒毛様体の輪状筋の収縮(緊張)
⇒毛様体の内前方への偏位
⇒毛様体内径↓
⇒チン小帯弛緩
⇒水晶体は自己の弾性で厚みを増す(=屈折力の増加)
と、説明しています(Helmholtz theory)。白内障手術をしている眼科医、とりわけICCE世代は皆、体で理解している筈で、若い人の水晶体は氷嚢のように非常に柔らかくて変形しやすいですが、加齢に伴い徐々に硬くなります。これは、限られたスペースの水晶体嚢内で、水晶体上皮細胞がいつまでも増殖を続けるため(だけ?)と考えられています。要するに加齢に伴い水晶体は硬くなり変形能が低下し、毛様体筋の収縮して、チン小帯のゆるんでも、水晶体の厚みが変化しにくくなる。それが老眼だと理解していました。
このほぼ絶対的とも思われる定説に反論がなされているのだそうです。
Schachar RA.の仮説
Cause and treatment of presbyopia with a method for increasing the amplitude of accommodation.
Ann Ophthalmol. 1992 Dec;24(12):445-7, 452.
Zonular function: a new hypothesis with clinical implications.
Ann Ophthalmol. 1994 Mar-Apr;26(2):36-8.
これによると、調節時(近くを見る時):
毛様体の輪状筋の弛緩
⇒毛様体の外後方への偏位
⇒毛様体内径↑
⇒チン小帯緊張
⇒水晶体赤道部が牽引され扁平化+中央部のみ曲率が増す。
にわかには信じられないし、調節性眼精疲労の説明もつかないと思うのですが、新しい文献を探すと、
Br J Ophthalmol. 2008 Mar;92(3):348-50.
The stress on the anterior lens surface during human in vivo accommodation.
Schachar RA, Koivula A
こんなのがありました。数£払って、閲覧した結果を少し紹介します。この論文は、Phackic IOLを挿入した人を前眼部OCTで検査したものです。解釈に若干間違いがあるかもしれませんが(予防線)、レーザー光があたった時の反射光の強さは、その反射面にかかる張力の強さに依存している?つまり、緩んでいる面からの反射は弱く、ピンと張っている表面からの反射は強い。水晶体表面からの反射をみると、調節している時に強くなる。つまり、調節に伴いチン小帯が緊張し、水晶体表面がピンと張っていることを意味していると・・・。この事実は、調節時、毛様体が収縮し、チン小帯が弛緩し、水晶体がその弾性で厚みを増すという Helmholtz theoryと矛盾するというのです。
当然ながら、この新説には、多くの反論があり、Glasser検証実験なるものは、Helmholtz theoryを支持し、Schachar RAは、逆風が吹き荒れる情勢のなか?それでも毛様体筋は調節時弛緩している・・・と。柔軟な発想を失ってしまった私には、なかなか信じられませんが。
※ブログの骨子は、『長谷部聡:老視のサイエンスアップデート.あたらしい眼科 Vol22,No8,2005』に大きく依存しています。
私は眼鏡店に勤めているのですが、この調節力についてのお話はなんだか「?」な部分が多いようにも思いますし、毛様体が弛緩するというのはにわかに信じがたいなぁとも思って読ませていただきました。
しかし、新しい考え方はものを見るときのさまざまな「なぜ」に答えを引き出してくれるものなのかなとも考えます。
この件に関して続きがありましたらぜひ拝読したく思います。